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長野地方裁判所松本支部 昭和39年(ヨ)11号 決定 1964年3月27日

申請人 鹿取辰男 外二名

被申請人 マルキチタクシー株式会社

主文

一、申請人鹿取辰男、同長田劭、同上条勲夫が、被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。

二、被申請人は、申請人鹿取辰男に対し金一八、九五〇円並びに昭和三九年三月以降毎月二八日限り金一八、九五〇円、同長田劭に対し金二二、八八六円並びに同年同月以降毎月二八日限り金二二、八八六円、同上条勲夫に対し同年同月以降毎月二八日限り金一五、八五二円の各割合による金員をそれぞれ支払わなければならない。

三、申請費用は、被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、申請の趣旨

申請代理人は「被申請人は、申請人鹿取辰男に対し昭和三九年二月以降毎月二八日限り金二六、〇一九円、同長田劭に対し同年同月以降毎月二八日限り金二五、〇一九円、同上条勲夫に対し同年三月以降毎月二八日限り金二〇、〇一三円の各割合による金員を支払わなければならない」及び主文第一項第三項同旨の仮処分の裁判を求めた。

第二、事実関係

疎明資料により一応認められる事実は、次のとおりである。

一、被申請人(以下会社という)は、昭和三四年八月一四日設立され、肩書地において現在営業用タクシー二一台を所有し、運転者二四名その他従業員一〇名計三四名を雇傭して一般乗用旅客自動車運送を業とする株式会社であり、申請人鹿取、同長田の両名は同会社の自動車運転手として、申請人上条は試傭期間中のものであるが、操車係として雇傭されていたもので、申請人鹿取はマルキチタクシー労働組合(昭和三六年四月結成、現在自動車運転手一四名加入―以下単に組合という)の執行委員長、申請人長田はその副執行委員長の地位にあり、同上条はその組合員である。

二、会社は、申請人長田に対し、昭和三九年一月三一日付で「鳥山に対する暴行」を理由として就業規則二三条二号、二五条二項により、申請人鹿取に対し、同年二月一日付で「一括支給した割増賃金二五二、〇〇〇円の使途不明」等を理由として同規則四条三号、二三条二号五号により、それぞれ懲戒解雇の通告を行い、申請人上条に対し、同月一九日付で口頭をもつて「期間が満了したからやめてもらう」旨の通告をなした。

三、本件解雇に至る経緯

(一)  会社は、不振な経営の再建を図るため昭和三八年九月末頃みすず観光株式会社(タクシー約五〇台、従業員約八〇名を擁するハイヤー会社)社長上原春人に融資を求め、同人を被申請人の会長に、会社専務白木正一を代表取締役に選出する等経営陣の交替強化を計画し、一方右上原の勧告で労使の協力体制をとること、そのため会社の株を従業員に解放し、全従業員を株主とすること、従業員の中から四名の重役を推薦してもらうこと、その重役の中に組合の執行委員長を含めること等の新しい経営方針を定めた。そして同年一〇月三日頃組合の役員三名を集めて、右方針に協力されたき旨の申入れをし、同月七日頃全従業員に対し「会社の株式を一般に公開すれば株券のブローカー、利権屋が入りこんでくる。全従業員が株主となり、その中から重役を出し労使協力していきたい。そうすれば上原会長は資金を出してくれる。」等と説得し、その後会社は組合に対し再三にわたり「従業員の中から四名の重役を出してくれ。その中には組合執行委員長を入れるように。」と要望を重ね、至急組合の回答を求めた。そこで、組合執行部は討議の結果、会社の経営面に組合の意見を反映させる意味から一応会社の要求を容れることにし、組合員の中から定年すぎのものを対象に勝野、鳥山、木下、勅使川原の四名を重役として推薦することに決定した。

(二)  ところで会社は、前記のように会社の株を従業員に解放するという趣旨から前記白木正一の父である会社前社長白木正男の持株を全従業員に一〇株宛譲渡したという形式をとつたうえ株主名簿に全従業員を株主として登載せしめ、同月二三日急きよ従業員を集めて株主総会なる会合を設け、その席上白木正一は「会社は重役に組合の鹿取執行委員長を推薦したい」との提案をしたが、「重役の名目で組合員は一人一人引き抜かれ、組合は弱体化することになる。」のを懸念した申請人鹿取はこれを拒否したため、組合員のうちから小岩井春男、鳥山武及び勅使川原光郭が取締役として選任され、前記上原会長、白木正一社長とともにこれが登記されるに至つた。なお、右小岩井については、組合から推薦されたものではなく、組合の関知せぬまに会社側の要望にもとづいて選出されたものである。

(三)  その後同年一一月中頃勤務ダイヤル、新車配分等について、重役会の決定事項として組合との協議を経ることなく一方的に組合に対してその実施を求めてきたが、組合がこれに反対したところ会社としては組合推薦重役の意見を聴取しており、あらためて組合との協議は必要でないとの態度を表明したため、組合は予想に反して前記重役を推薦したことの重大性に思い至り、同年一二月二三日頃会社に対し組合推薦重役の退陣を要求した。しかし会社は組合で自主的に解決すべき問題であるとその要求をつつぱねた。そこで組合は、右小岩井、鳥山、勅使川原に対し直ちに取締役を辞任し組合に復帰するよう説得したところ勅使川原は辞意を表明したが、小岩井、鳥山はこれを拒否したため同月二五日組合大会において右両名を組合から除名する旨の議決をするに至つた。その後重役退陣、年末一時金、退職金積立、新車配分、勤務ダイヤル、割増賃金等の諸問題について数回にわたり会社と団体交渉を重ねてきたが、年末一時金、後記の割増賃金の案件について妥結をみただけで物別れになり、特に勤務ダイヤルの編成については、昭和三九年一月二七日頃「ダイヤルから小岩井、鳥山の運転手重役を除外してくれ」との会社側の要望があつた。組合は全運転手一本化のダイヤル編成を強調してこれに反対し、小岩井、鳥山等の進退をめぐり、会社、組合間の対立が次第に深まつてきた。

(四)  これに先立ち、昭和三八年一二月二三日頃会社、組合間において、従来より交渉を重ねてきた割増賃金(精勤手当、無事故手当を内容とする未払い賃金)支払いの問題が妥結し、割増賃金として金二五二、〇〇〇円を一括して組合に支払う、その配分は組合に一任する旨の協定が成立した。そして同月二五日組合大会において右割増賃金は年末手当の基準により配分すること、小岩井、鳥山を除名すること、両名に対してはその配分をしない方がよいが、これについては組合三役に一任すること、組合に二万円位のカンパを提供すること、との議決があり、同月二七日右協定に基づき申請人鹿取が組合を代表して会社から割増賃金二五二、〇〇〇円を一括受取り、右組合決議に従い一九名の従業員にこれを配分した。しかして、小岩井、鳥山に対する配分については、さらに重役辞退を勧告して、組合復帰を呼びかけ、復帰した場合には手渡すという組合三役間の諒解の下に、両名に対する支給分金二四、六〇五円は組合書記長竹野悦男において保管せしめ、残額一五、〇一二円は右組合決議のとおり組合カンパ金として組合財政に繰入れた。

(五)  その後申請人長田が、主として小岩井、鳥山を組合に復帰させるため説得に当つていたが、昭和三九年一月二八日頃両名にその話をもちかけたところ「少し考えさせてくれ」と言われ、その返答を待つた。翌二九日昼頃小岩井、鳥山が自動車(コンテッサー)に乗り、公休をとつて自宅にいた申請人長田を訪問してきたので、鳥山は右自動車の運転台、小岩井は助手台、申請人長田は客席にすわつて話合つた。そこで鳥山は「会社とは二年間重役になる約束をしているので組合へ帰れない。新年会の席上委員長はネクタイピンを配つたが、自分達は組合費を払つているのに何故くれないのか。おれ達に割増賃金を分配してくれ。」等と言い出したため、今までの行きがかりもあり、組合員の一致団結を念頭にもつ申請人長田はつい感情的になり、興奮のうえ突発的に右手で鳥山の右頬部を一回殴打し、そのため同人に対し全治約三日間を要する右頬部擦過創の傷害を与えた。

(六)  会社は、前記第二の二のとおり、同月三一日申請人長田に対し、懲戒解雇を言渡し、翌二月一日付内容証明郵便を以て解雇通告をした。そこで同日申請人鹿取を始め組合執行部は、その上部団体である松本地区評及び全国自動車交通運輸労働組合の役員等と共に申請人長田に対する懲戒解雇について団体交渉を求めるべく会社の片端事務所に赴いたところ、白木社長は「解雇したものについての話し合いはする必要がない。」と言つて事務所の戸を締めて交渉を拒否した。それで、さらに事務所を開けて交渉を申入れたところ、白木社長は「くどいことを言うな、委員長、君も今日かぎり解雇だ」と言い、申請人鹿取に対し、前記第二の二のとおり、同日付内容証明郵便を以て「支給せる給料未払金使途不明」との理由で懲戒解雇の通告をなすに至つた。

(七)  その後、同月一〇日頃会社の取締役として登記されている前記小岩井春男を委員長とするマルキチタクシー従業員組合(以下従業員組合という)が結成されたが、これに先立ち、同月八日頃小岩井、鳥山等が申請人上条のところへ従業員組合結成後これに加入の意思があるか署名をとりにきたが、同申請人はこれを断わり、同月一六日頃申請人鹿取を委員長とする前記組合に加入した。会社は同月一九日頃申請人上条に対し試傭期間が切れたことを理由として解雇を言渡した。

第三、当裁判所の判断

一、申請人長田に対する懲戒解雇の効力について

同申請人が鳥山に対して暴行を加え、そのため同人に対して全治約三日間を要する右頬部擦過創の傷害を与えたことは、前記第二、三(五)のとおり疎明されるところである。

ところで、就業規則二一条によると、懲戒処分として譴責、昇給停止、減給、懲戒解雇の四種を定め、同規則二三条によると、「次の各号に該当するときは懲戒解雇する。但し、情状により処置を軽減することがある。」として同条各号に該当事由を列挙しているが、このように懲戒処分について軽重の差がある場合には、その何れを選択するかは、懲戒原因たる事実の程度、態様、動機及び結果等諸般の事情を総合的に判断してなされるべきは勿論のこと懲戒解雇は、労働者を企業外に排除し、労働者から生活の基盤を奪い、家庭の平和を破壊するに至る等重大な不利益を課する制裁処分であるから、懲戒規定の適用にあたつては使用者の恣意ないし便宜的な裁量によることなく客観的に妥当な判断に基づいてなされるべきものであり、その判断を誤つて懲戒解雇した場合には、就業規則の解釈適用を誤つたものとしてその懲戒解雇は違法無効というべきである。

そこで、本件についてこれをみるに、申請人長田が鳥山に対し暴力を振つたことは非難されるべきことではあるがそれに至つた経緯を考慮するならば、暴行の所為に及んだその動機について同情すべき点があること、特に被害者である鳥山等が組合の意向を無視して重役の地位に留まる等組合に対する背信行為が本件暴行の誘因をなしていること鳥山が右暴行により受けた傷害の程度は軽微であること、申請人長田は、右暴行後その非を悟り、鳥山、白木社長等に対し謝罪の意を表明していること、同申請人には、それまで勤務成績ないし行状について特に不良であつた事実は認められないこと等の諸事情を考慮するとき比較的軽い本件暴行行為に対し最も重い懲戒解雇をもつて処することは著しく情状の判断を誤まつたものであり、本件懲戒解雇は就業規則の定める懲戒規定の解釈適用を誤つた違法無効の処分といわざるをえない。

二、申請人鹿取に対する懲戒解雇の効力について

同申請人に対する懲戒解雇事由は「支給せる給料未払金使途不明」を理由として就業規則四条三号、二三条二号により、並びに「同僚に対する不法な辞職強要」(小岩井、鳥山を始め非組合員たる森、曽根原、宮尾に対する)を理由として同規則二三条五号により、なされたものであることが疎明されるが、給料未払金即ち割増賃金未払金については、前記第二、三(四)のとおり、その配分を会社から一任されていたものであり、組合大会においてこの分配基準を定め、小岩井、鳥山に対する支給分金二四、六〇五円については、支払わなくともよいとの決議がなされたが、組合役員において両名の重役辞退、組合復帰をまつて支払うことにして組合書記長竹野悦男において、これを保管していたものである。なお、疎乙第八号証の割増賃金分配計算書によると、小岩井、鳥山に対する支給分が計上されていないことがうかがえるが、この計算書は、昭和三九年一月八日頃申請人鹿取が会社の宮沢常務から「割増賃金二五二、〇〇〇円について年末調整の対象になるから配分表を作つてくれ」と要求され、「小岩井、鳥山に対する支給分については、追加金として皆に分配した形式にしてよい」旨の指示をえて、年末調整申告のため形式的に作成したものであることが認められる。従つて、本件全疎明資料によるも「給料未払金の使途不明」という懲戒解雇事由に該当する事実は認められない。また会社が申請人鹿取に対する懲戒事由の一つとして挙げている就業規則二三条二号「業務の遂行を不当に妨害した場合」(小岩井、鳥山が右割増賃金の支給を受けなければ就労しないということのため、会社の業務に差支えを生じたこと)及び同規則二三条五号「同僚(右森、曽根原、宮尾)に対する不法な辞職強要」の事由の存在については、何等の疎明もなく、小岩井、鳥山に対する重役退陣の要求は、前記の経緯により発生したもので右規定の解釈上、これに該当しないものと解する。従つて申請人鹿取に対する懲戒解雇原因たる事実は何れも存在しないものといわざるをえず、同申請人に対する本件懲戒解雇は、就業規則の適用を誤つた違法無効のものである。

三、申請人上条に対する解雇の効力について

就業規則七条によると、「正式採用前の試傭期間は三カ月とし、試傭期間を終了し引続き雇傭する場合は更に臨時雇傭契約書を交付して採用する。なお勤務成績と会社の都合により正式採用することがある。」旨規定しているが、一般的に会社と試傭員との労働契約は当初より期間の定めのない雇傭契約としての性質を有し、試傭期間中は、会社において従業員としての適格性を調査し、業務不適格者と認めるときは解雇することができる旨解雇権が留保されているものと解するのが相当であり、本件会社と試傭員との雇傭関係も、その例外ではないと解される。しかしながら、この解雇権の行使にあたつては使用者の自由裁量に委ねられるべきでなく、試傭員の能力成績行状の良否等業務適格性の判定については、社会通念上妥当な判断によるべきであり、また会社側の都合と言つても企業整備、経営合理化等客観的妥当な基準に従うべきである。

従つてこれら特段の事由がなく、会社の恣意的便宜的な判断により試傭員を解雇することは、解雇権の濫用として無効といわざるをえない。

ところで疎明資料によると、申請人上条は、以前六年間程松本タクシーで配車係をしていた経験者で、被申請人会社に入社するについては、会社の重役達から「腰かけ程度で居てもらつては困る。君もこのような会社には始めてではないし、知つている人も多いので一生懸命やつてくれ」と激励され、入社後は操車係として、一日も公休をとらず真面目に勤めてきて、勤務成績、行状について不良とみられるふしは全然認められなかつたこと、会社では昭和三八年頃から引続き申請人上条に対する解雇当時である昭和三九年二月一九日頃にも従業員を募集していること、昭和三四年会社設立以来試傭期間満了で解雇した事例は皆無といつてもよいこと、申請人上条は前記第二、三(七)のとおり昭和三九年二月八日頃小岩井、鳥山からの従業員組合への参加勧告を排し、同月一六日頃申請人鹿取を委員長とする前記組合に加入したものであるが、これより先同年一月一〇日頃申請人上条は、白木社長に対し浅間営業所二階の部屋の借用方を申込んだところ、そこは車庫に改造するため、社長から別の借間を好意的にあつ旋してもらうことになつたが、同年二月一四日頃部屋の選択について相談を持ちかけたところ、社長の態度は急変し、勝手にやれとつつぱねられたことが認められる。

右事実と前記第二、三(一)ないし(五)の会社と組合との紛争の経過をあわせ考えると、会社はかねてから経営の不振をばん回しようと考え、労使協調という名目の下に、組合員の中から数名特に組合の執行委員長をも加えて組合推薦の取締役を出してもらい、これを表面上経営陣に引き入れることにより実質的に組合活動を抑圧し、組合対策を有利に展開できるという効果を期待し、この方針に従つて組合員である小岩井、鳥山等を取締役に選任せしめるに至つたものであり、勤務ダイヤルの編成、新車配分について組合推薦重役の意見をも反映されていることを理由に重役会での決定を一方的に実施しようとした。そこで組合の反対にあい、そのうえ組合から小岩井、鳥山等運転手重役の退陣要求を受け、これを拒否してきた小岩井、鳥山は組合から除名されるまでに至り、そのため両名は急速に会社側に接近し、両名は組合と真向から対立することになつた。そのうち取締役として登記されている小岩井春男を委員長とするマルキチタクシー従業員組合が第二組合として結成されたが、これらの経過をみれば、この組合は申請人鹿取を委員長とする前記組合の対立組合として、会社がこの結成にあたり何らかの支援を与えていることが推認されないこともない。申請人上条はかかる事情の下に従業員組合からの勧誘を拒否し、前記組合に加入したのであるが、このことをこころよく思わない小岩井、鳥山等から会社社長その他重役の耳に入り、申請人鹿取、同長田の懲戒解雇を契機として、団体交渉の要求等次第に活動が活発になつてくる組合の対策に頭を痛め、組合弱体化の方策に腐心していた会社社長その他重役をして申請人上条の右行動が好ましからざるものとして受けとられ、たまたま試傭期間の満了に当り、解雇の手段に出たのが真相であると推認される。

以上のとおり、申請人上条の試傭期間中の勤務成績は良好であり、業務不適格者とは到底認められず、また会社においても同申請人を解雇するに必要な特段の事由は何も存在せず、さらに前記のとおり、同申請人に対する害意ないし会社に好ましからざる組合員の排除という不当な目的に出たものと認められないこともない。従つて、以上の諸事情を綜合して考慮するならば申請人上条に対する本件解雇は、権利の濫用として無効といわざるをえない。

四、以上要するに、申請人三名に対する本件解雇は、いずれも無効であるから会社と申請人三名との雇傭契約は依然として存続するものというべく、申請人三名は会社の従業員たる地位を有するものである。

しかして、本件各解雇の意思表示がなされた当時、申請人鹿取の平均手取賃金は一カ月金一八、九五〇円(昭和三八年九月、一〇月、一二月、昭和三九年一月の平均額)、同長田の平均手取賃金は一カ月金二二、八八六円(昭和三八年一一月、一二月、昭和三九年一月の平均額)であつたこと、申請人上条については、昭和三九年一月の手取賃金が金二二、六四六円であつたこと、右各賃金の支払期日が毎月二八日であつたことが疎明される。

五、本件仮処分の必要性

申請人鹿取は妻、子供二人の家族、同長田は妻をそれぞれ抱え、両名の賃金収入のみにより生活を維持してきたもので、本件解雇により収入の途を絶たれ、現在生計は困窮し、今後家庭生活が危殆に陥ることは容易に推認されるところである。従つて本件仮処分は、これを認める必要性があるものといわねばならない。申請人上条は独身者であるが、生家を離れて生計は自己の労働収入により維持してきたものであること、本件解雇により生計が困窮し、将来不安定な状態になることがうかがえる。しかし同申請人は独身者であり、扶養すべき家族もいないから、その生活を維持するに必要な額は前記手取賃金二二、六四六円のうち金一五、八五二円を限度とすべく、その限度において本件仮処分の必要性があるものと認められる。

六、よつて申請人三名の本件仮処分申請は、被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定め、かつ、被申請人が申請人鹿取に対し、すでに履行期の到来した昭和三九年二月分の賃金(前記平均手取賃金)金一八、九五〇円並びに同年三月以降毎月二八日限り金一八、九五〇円、同長田に対し、右同様同年二月分の賃金(右同)金二二、八八六円並びに同年同月以降毎月二八日限り金二二、八八六円、同上条に対し、同年三月以降毎月二八日限り金一五、八五二円の各割合による金員を求める限度において、その理由があるから、保証を立てさせないで、これを認容することとし、申請費用につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 梅原成昭)

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